RECOMMENDs特別座談会
特別座談会 ワールド マーケティング サミットをどう読むか 2021 ダイジェスト
マーケティングのプロが選んだ講演や学びのポイントを紹介
2021年11月11日に行われた「特別座談会 ワールドマーケティングサミットをどう読むか2021」。この座談会では、各分野のマーケティング専門家がパネリストとして参加。eWMS2021の見どころや、おすすめの講演について紹介しました。誰の講演を聴こうか迷っている方、初めてeWMSにご参加される方へ、おススメの講演や感想を中心に、座談会のダイジェストをお届けします。
パネリスト
- 江端 浩人 氏
(コーディネーター) - iU情報経営イノベーション専門職大学 教授
- 石橋 昌文 氏
- ネスレ日本(株)専務執行役員、WMSジャパンカウンシル 事務局長
- 徳力 基彦 氏
- note プロデューサー/ブロガー、WMS アンバサダー
- 鳥山 正博 氏
- 立命館大学大学院経営管理研究科教授
- 水越 康介 氏
- 東京都立大学経済経営学部教授
- 岡 弘子 氏
- (株)博報堂 博報堂マーケティングスクール代表
- 安成 蓉子 氏
- (株)翔泳社 MarkeZine編集部 編集長
フィリップ・コトラー教授 基調講演 「マーケティングの未来(Future of Marketing)」
最初に、ワールドマーケティングサミットの発起人であり、“現代マーケティングの父”と呼ばれるフィリップ・コトラー教授の基調講演を、パネリスト全員で視聴しました。基調講演の中でコトラー教授は、未来予測が非常に難しい今、我々一人ひとりが未来の創造に寄与しているという自覚の必要性を訴え、マーケティングは、人間中心であるとする最新著書『H2Hマーケティング』の考えと、予測される未来の姿を紹介しました。
『H2Hマーケティング』の監訳者である鳥山氏は「コトラー教授をはじめ、eWMSの各講演を聞くと、世界におけるマーケティングの温度感というものを感じます。『H2Hマーケティング』でも触れている『愛される企業(Firms of Endearment)』というトピックが共感を呼んでいるようですが、それは、マーケティングが人間中心(H2H)に移行している、という考えが骨格になってきている良い例です。コトラー教授は、マーケターからヒューマニストという、一段大きな立ち位置にシフトしているのではないでしょうか」と語ります。
noteプロデューサーの徳力氏は、「コトラー教授が、コロナ禍で人の意識が変わり、世界的に新しいマーケティングが求められると提唱する中、日本は元に戻ろうとする風潮があるのではないか?」と問題提起しました。東京都立大学の水越氏は、「元々来るべきだった世界が、新型コロナウィルスの影響で急速に到来したイメージがあります」と述べ、考えるべき変化への対応と、状況への危機感を示唆しました。
ネスレ日本の石橋氏は「世界が大きく変革する中、人々は企業の存在意義“パーパス”に注目し始めています。今後、企業は、社会への貢献を常に念頭に置いて、ビジネスを展開する必要性があります。73%のCEOが、売上を上げながら、社会や経済的状況を改善できるという調査結果を知り、心強く感じました」」と、述べました。
eWMS初心者におススメの講演とは?
MarkeZine編集長の安成氏は、eWMSに初めて参加する方や、マーケティング実務者向けに、3つの講演を視聴する順に紹介しました。
1つ目は、星野リゾート代表 星野佳路氏 『顧客志向のマーケティングで違いを作れ 〜混乱したホテル業界への警鐘〜』です。「コモデティ化の大きな悪因は、顧客不在のマーケティングであるとズバリ指摘しています。”顧客が見えていない”あらゆる業界の共通課題でもあり、それに立ち向かう同社の具体的な取り組みは必聴です」
2つ目は、トランスコスモスの福島常浩氏『ロイヤルティマーケティングと市場創造が切り拓く未来』。「星野氏の講演で意識付けられた顧客戦略を、いかに経営から施策まで繋げるかが見えてきます」
3つ目は、UCバークレー ハース経営大学院 デービッド・アーカー名誉教授 『破壊的イノベーションにおけるブランディングの役割』です。「ビジネス課題をイメージしながら、その課題とアカデミックな内容とを有機的に結び付けられる一助になります」
日本企業の課題を考える
本座談会のコーディネーターである江端氏は、「eWMSを視聴することで、海外のマーケティングの状況を学ぶことができますが、日本企業のマーケティングは、どんな状況でしょうか?」と問いかけました。
博報堂マーケティングスクール代表の岡氏は、「様々な企業から、『もはや、商品が売れる仕組みだけをつくっても、差別化ができない、どうしたらいいのか?』と、相談を受けます」「お客様と企業の関係づくりが大切なのですが、浸透には時間がかかります」と語りました。
鳥山氏は、「日本のZ世代は、世界に比べ、ブランドや企業に対する共感意識が低い」と指摘。「企業が、将来の消費者層の価値観に寄り添う、という機能が働かず、その結果、日本ではまだ社会意識として顕在化していないのではないか?」と述べました。
石橋氏は、ネスレ日本が2016年に行ったパーパスの定義の背景として、「共通価値の創造」が根幹にあることに触れ、ネスレ日本CEO 深谷龍彦氏の講演『サステイナビリティで競争優位を導く』で伝えたように、「ミレニアム世代、Z世代に支持されるためにも、サステナビリティを大事にしている企業であると明言し、実行する事が重要」と語りました。
ソーシャル・マーケティングへの見解を深める
今回のサミットは、ソーシャル課題を扱う講演者が多く、ワールドマーケティングサミットグループ CEOのサディア・キブリア氏も『ポスト・コロナの世界における、ソーシャルプレナーシップ(社会起業家精神)』というタイトルの講演を行いました。ソーシャルについての話題を講演者ごとに辿っていくのも、eWMSのひとつの楽しみ方かもしれません。
その中でパネリストの話題に上がった講演が、ソーシャル・マーケティング・サービス社 社長 ナンシー・リー氏の『世界のソーシャル・マーケティング 10の成功事例』です。この講演を「大きな学びが得られる」と推薦した水越氏は、「日本では営利目的のマーケティングが主流だったので、ソーシャル・マーケティングは、一見遠い話題に感じるかもしれないが、実はとても近い距離の話」と話し、「コトラー教授とナンシー氏は社会的問題について1970年代から研究をしてきました。本講演では、薬物の過剰摂取、アルコール中毒、マラリヤといった数々の社会問題を解決した事例が紹介されていた。これらの社会課題は、営利企業も扱うべきであり、営利と社会、この2つの区別も小さくなってきている」と語りました。
また、徳力氏は「D2C(Direct to Consumerの略。消費者と企業がダイレクトに取引する販売方法)によって、企業は自分達が何を提供できるのか考え直すべき時代に入っている」と語り、日本でのソーシャル・マーケティングの成功事例として、P&G社パンテーン (Pantene、ヘアケアブランド)のパーパスを軸としたキャンペーンを挙げました。「企業が社会問題に対する取り組みを宣言した結果、『この企業を応援したい』という消費者の意識が働き、商品訴求をしていないのにも関わらず、売上が上がる。コトラー教授が言う通りの事が起こった」と語り、ナンシー氏の講演を「脳が揺さぶられる講演」として推薦しました。
星野リゾート、ロッテ・・・日本企業から学ぶ具体的事例
多くのパネリストが、前述でも登場した星野佳路氏の『顧客志向のマーケティングで違いを作れ 〜混乱したホテル業界への警鐘〜』を推薦しました。若者向けのブランド『BEB(ベブ)』の事例が紹介され、同社の変革事例が、多くのマーケターに刺激を与えたようでした。
徳力氏は、「若者のニーズを満たすために、業界の慣習を打ち破り、定額制を導入し、成功に導いた同社の変革に驚きました。星野リゾートは究極のD2Cだと思います」と絶賛。併せて日産自動車株式会社 執行役副社長 星野 朝子氏の『「2050年までに脱炭素化」 EVを中心とした日産のマーケティング戦略』も推薦しました。
水越氏は、「新たなホテルブランドへの切り込みも、ダイナミック・プライシング(季節によって値段を変える)の流れの逆を行っていて、とても印象深い」と語りました。
また、ナラティブを活用し、消費者を巻き込んだプロモーションの好例として、ロッテの小川貴昭氏と本田 哲也氏との講演 『「キシリトール」が実践するSDGsのナラティブ』 が話題に挙がりました。
グローバル視点から見る世界
世界各国の講師からグローバルな観点のマーケティングを学べるのも、eWMSの大きな特徴です。
鳥山氏がピックアップしたのは、サイモン・クチャー&パートナーズ 創立者&代表 ヘルマン・サイモン氏の 『隠れたチャンピオン:中国の世紀の新しいゲーム』でした。「中国とドイツには、アップルの部品メーカーなど、世界に通用する中堅企業“隠れたチャンピオン企業”が存在する。その企業成長の理由と、世界の潮流を“新しいゲーム”として学べます」と推薦しました。
石橋氏は、予測できる未来としての人口動態に注目し、そこからビジネスチャンスを考えるとともに、消費者のインサイトをしっかりと見つめる必要性を提唱した、IMDのドミニク・テュルパン教授による『新たな顧客像とは?』を推薦しました。また、ビジネスに影響を与える国家や経済について知ることができる講演として、マギル大学 ヘンリー・ミンツバーグ教授の『社会のバランスを取り戻す』を推薦。「ミンツバーグ氏は、“国家”“企業”“コミュニティー”の3つのバランスが重要であるとし、世界で完全な民主主義国家は23国家しかなく、日本もその一つで、CSRを考えて行動しているとポジティブな見解だった」と語りました。
ブランディングの新しい役割を見出す
岡氏が絶賛したのが、UCバークレー ハース経営大学院 デービッド・アーカー名誉教授の『破壊的イノベーションにおけるブランディングの役割』 です。「イノベーションはブランディングから生まれる。モデルブランドの資産価値持続、そして、企業成長の成功のカギである“必須のサブ・カテゴリー(Game-Changing Subcategories”の重要性を提唱したアーカー教授講演は、マーケター必聴!)と推薦しました。
このサブ・カテゴリー理論に繋がる講演として挙げられたケイアンドカンパニーの高岡浩三氏による『新しい現実の中にある無限のマーケティング機会』について岡氏は、「NRPSは、多くの消費者が抱えている問題・諦め・不満を、“地上に出る前のタケノコ”と表現した、非常に面白いメソッド」、石橋氏は、「クライシス=危機という言葉の中にはopportunity(機)の文字がある。ビジネスチャンスは諦めている問題の中にある、という内容で、今回はさらに進化した内容となっていた」と語りました。
最後に、岡氏は、Peppers & Rogers Group 創立者 マーサ・ロジャーズ氏の『顧客価値を高めるために必要なものは何か? 』を推薦し、顧客価値を増大させるためは、実は従業員の満足度を向上させることが最も大切とした同講演を、「デジタル社会であっても人と人が繋がる大切さは、コトラー教授のH2Hとリンクすると思います」と語りました。
パネリストたちは、サミット全体について、
「100以上もの講演は、学びのシャワー」
「アカデミックとビジネスの距離を近づけるコンテンツ」
「主要なコンテンツが、日本語吹き替えされていて、聞きやすい」
「“世界への窓”である本サミットは、世界へ目を向けるチャンス」
「アーカイブ視聴できるので、スキマ時間を活用して楽しみながら学んで欲しい」
という感想を述べました。
以上、パネリスト達が推薦した講演、見どころが、ワールド マーケティング サミット オンラインを十分に満喫するきっかけになれば幸いです。
講演の視聴は12月10日まで。お申込みはこちらから行えます。
チケットは残数わずか。お見逃しなく!